私の植物との交際は自らいうのも何であるが、非常に広い範囲に及んでいるので、その中には学術的或は産業的に重要なものも少くない。何か宝物の事を書けとの注文であるが、生きものであるので生き残っているもので手持ちのものは少ない。近年は体力の関係で花の仕事が多くなって、花に囲まれてよいではないかと言われるが、私の仕事の中では飯の種子である。その花は楽しむどころか、大変な国際園芸界での追いつけ追い越せ・逃げ切れの闘争的経済競争の過酷な条件の中での生活で、情報集めさえ炎の中での仕事である。
私の花の品種改良作業中で一般には知られていないものの一つにシュウカイドウがある。この花は中国原産で日本には古く入り、寺社をはじめ国内に親しまれてきた耐寒性のベゴニアである。然し古くから欧米で品種改良が試みられた。他の交配親には使用されたが、頑として変わったものはできていない。10年前の昭和47年にオランダで10年に1回開かれる国際園芸展フロリアーダ72年にその一部を出品した、国内の人は何だそんなものと明言した人が多いが、やはり見る目のある人が世界には多く、銅賞位はくれるよと広言していたのが、日本出品物中唯一の銀賞を与えられた。
(辰野朝日新聞・昭和57年11月13日掲載)
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