マツモトセンノウ──花の色や形が多い

マツモトセンノウという宿根性の草花がある。江戸時代の版画の珍しい草花や植木の本にたくさんでているが、ある時期からその生きたものが失われてしまったものがいくつかある。そのうちの一つがマツモトあるいはマツモトセンノウで花の色や形がたいへん多かった。この植物の名前が再び園芸や植物の関係の本にでてくるのは明治中期以後で、商品として扱われたのは小生の20前ぐらいからである。
有名な植物学者・牧野富太郎博士がマツモトセンノウのマツモトは信州松本でなく、松本幸四郎に由来するものと強く主張し、九州には熊本産のものにツクシマツモトの名をあげている。昭和10年ころ、宮崎県の植物調査をしていたころにこのツクシマツモトをさがしたがついに得られなかった。戦後伊那や松本あたりを歩くとマツモトセンノウがほうぼうで栽培されており、23年には長谷村の奥部落で茅屋の石垣の間に咲いているのも見つけた。なぜマツモトは信州に多いのか。明治年間に信州松本に多いからマツモトセンノウと言うという説に強く反対して牧野博士はなぜあれほど強く、歌舞伎役者の松本を主張したのだろう。私の若いころからの疑問である。
   (辰野朝日新聞・昭和57年12月18日掲載)
  写真撮影:青木繁伸氏(群馬県前橋市)

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