マツモトセンノウの交配と栽培[1]──自花で授精できぬ仕組みに

年の始めは姫始めという。姫事をすればすぐ子供や種子ができるとは限らぬのは植物も同じ。白と赤の花を交配すると桃色の一代雑種ができるというような単純な遺伝はめったにない。近親交配による劣性化を防ぐためにいろいろの植物が自花あるいは自株で種子を作れぬような花の咲き方、雄芯(しん)雌芯の成熟の時期が異なる仕組みになっている。
マツモトセンノウは開花と同時に雄芯は同時でなく次第に花粉を出すが、それが終わった後で5本の棍棒(こんぼう)状の雌芯をのばしてくる。これに他の株の花粉を着けてやるとはじめて授精して種子を結ぶ。株によっては同じ株の遅く咲いた花の雄芯の花粉を着けてやると結実する場合もある。キキョウも同じような授精の仕組みを持っているが、キキョウはほとんどの株が自家授精をする。
マツモトセンノウの種子は8月には完熟してまけばすぐ生える。秋まきして早く大きくなった株は良い冬芽をつけて翌春は真っすぐな茎をのばす。遅くまいたものや春になってまいたものははじめの茎は細くて倒れやすいが、次第に秋までの間に開花する。実生株はいろいろな姿のものが咲くので、気に入った花の株のみを残して他は捨てる。これができれば貴君や貴女は立派な品種改良家で真物の高度な園芸家のレッテルがはられたことになる。
   (辰野朝日新聞・昭和58年1月15日掲載)
  写真撮影:青木繁伸氏(群馬県前橋市)

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