東西庭木の手入れ──個性ある庭園の美

フランスの都パリのベルサイユ宮殿を遠くから見ると、50年も前に見たのと全く同じ、それよりずっと昔の造園の本にも黄金ヒバの円すい形の刈り込みが並んでいる。
10年ほど前に訪れた時、ちょうど庭師さんが手入れをしていた。細ノコギリと手バサミだけで刈り込み用のハサミはどこにもない。そばで見ると高さ3メートルをずっと維持した大変な古木ながら、枝はすきずきとして、遠くからは円すい形ながら、太く長く伸びた枝は細ノコギリで切りとって、幹元まで日がさしこむので、若枝があり、少し伸びすぎた枝のみを小バサミで先をそろえている。日本にこんな庭師がいるだろうか。岡山の後楽園、京都の名苑や水戸などの名園のツツジは微玉刈りを枝先だけ、玉刈りは割れ、大きい木も先に細い枝と葉がかろうじて残っている老惨の姿のみ。
狭い個人庭園にいたっては自然のその木の姿を保った美しさはない。いわば人為的な傷だらけの寄せ植え庭園は、自然を愛好してきた日本の表徴であるかも知れないが、それは小鳥も住めぬ姿であることを考えた人があるだろうか。どの庭も似たりよったりで個性がない。辰野へ行ったらどの庭もみんな個性があって美しいというようになったら楽しかろう。
   (辰野日報・昭和59年1月21日掲載)

あなただけの大切な本を作ってみませんか―中央印刷がお手伝いいたします

箔を使った「風林火山」の扇子をつくりました。ご覧下さい。

園芸事はじめ/信州でガーデニングを楽しむためのエッセイ集