大木を大切に[8]──品種は豊富な桜

桜は昔から、品種は極めて多く、最近は方々に植えられるようになった。しかしその品種に適した砧木の研究は少しも進んでいない。ヤマザクラやエゾザクラを砧木にするほかに、当地に巨木の多いシダレザクラの実生苗も試みて見る必要がある。また白い小花を穂状につける長命のイヌザクラも砧木として研究する必要がある。また、最近は挿し木の容易なフジザクラの自然変異で観賞価値の高いものが続々と発見され、盆栽や小庭園向きの小型桜の利用は今後の桜の園の好材料となっている。いわゆるサトザクラやヤマザクラも美しい系統が国内あちこちで見つかっているので、まあ桜ブームが始まったと見てもよい。所が桜切るばか梅切らぬばかで桜の枝は切ってはならぬ事になっているが、整枝剪(せん)定を適当に加えることによって1本だけあるいは集団植えの美しさを何倍かに増すことができる。植えっぱなしで良く育つはずはない。
巨木になりにくい桜は前述のフジザクラのほか、ケイオウザクラ、ヒガンザクラや暖地では1月から咲くヒカンザクラ(別名カンヒザクラ)などである。暖地では早咲きのヒカンザクラは当地ではヒガンザクラより遅れて咲き、濃い紅の花は垂れてソメイヨシノの散る頃まで長期に咲いている。
イヌザクラやシユウリザクラは花が穂状になって、5月芽がのびて新梢の先に咲くので山には多いのに知らぬ人が多い。
   (辰野日報・昭和59年3月24日掲載)

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