イチイ[3]──冬霜柱を立てぬ様に

イチイを増殖するには普通種子をまく。今雌木の下に落ちている実を拾い集めてよく洗い、湿ったままでポリ袋に入れて乾かさぬ様に貯蔵する。湿った砂を混ぜ低温の所におく方がよい。少しならすぐ堅焼きの鉢に赤土を入れ、種子をまき、少量赤土で覆土してたっぷり灌水してガラスで覆い乾かぬ様に日陰におくと明年か明後年に発芽する。専門的には赤土のたたき床まきとして、しっかり日覆いをする必要がある。冬霜柱を立てぬ様に。
挿し木でふやすこともできる。一番の適期は2月末の雄花の咲くころに前年度の徒長していない枝を赤土挿しにする。前々年度の葉の着いている部分もつけてよい。枝と葉は半分くらい切り去る。日陰でも余り乾かない様に注意すると活着する。しかし、枝を挿したものは大きくなっても幹はできない。暖地では育苗業者はキャラの50センチ余の大枝の深挿しを梅雨期にする。当地での梅雨期挿しは高温にならぬ様、半日陰で高湿度の密閉挿しとする。
イチイは長い間枝をこましておくと、幹も太枝も新芽を出さなくなる。若木の時に枝を3分の1位以下に減らしてしまうと後々まで幹や太枝に日が当たり、新枝が出るので美しい樹型を長く保てる。
神主様の正装の時に手に持つシャクという板はイチイで作る。イチイは一位で最高の位の木で、めでたい木であるから学校等の記念樹にも用いられる。
   (辰野日報・昭和59年11月3日掲載)

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