カキ[1]──ほとんどが接ぎ木

カキは当地の昔からの果樹。ところが柿(かき)のことは案外知られていない。おいしい食品とくに果物が豊富になったのでほとんど顧みられなくなり、あまり質の良くない実の木は切られたり、最近は古木がゴルフ用具に使われるのでさらに古木は減っている。
方々に一杯ある柿の木は驚いた事にはほとんど全部が接ぎ木である。一般果樹中、クリに次いでカキの接ぎ木はむずかしいのに、昔は畑の隅や庭先に生えたコガキに接いだために巨木は多いが、明治以降の園芸の発達と共に移植が行われ、コガキの根とくに直根が切られるので、若木には大木がない。
コガキについては後で書く。いわゆる駄柿でもなぜ接いだのか。近ごろは市田柿として優良系がとくに選抜されてコロ柿にされているが当地にも沢山あった。毎年あるいは1年おきに物すごくなったので町内にも沢山の木があったが今はまれ。暖地の富有柿や次郎等も明治以来随分植えられたが平核無(ひらたねなし)と共に当地は温度不足で甘くならない。
富有が安全に毎年甘くなるのは駒ケ根市の飯田線の下以南である。狭い面積では伊那市以南に甘柿として食べられる所がある。土産子の甘柿も2、3種あるが現代の舌の肥えた人達には適しない。おもしろいのは半渋とかもと渋という腰高の品種で秋早くから上とか片側だけ甘い柿で、晩秋には全部大変に甘い非常に珍しい地方種である。
   (辰野日報・昭和59年11月17日掲載)

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