カキの砧木には当地ではシナノガキ通称コガキを使うが砧木としては矮性砧木である。暖地では普通の柿とか野性状のヤマガキの実生苗に接ぐ。寒地ではカキ砧の木は耐寒性がやや弱い傾向がある。そして、カキ砧は太い根を切ると掘り残しの切り口から不定芽が沢山でて始末が悪い。
柿の接ぎ木は穂木は3月上旬までにとって冷蔵庫あるいは日陰の地中に埋めておく。4月下旬以後の晩霜の心配がなくなってから。カキは元来根も芽も暖かくならねば春の生育をはじめないから、遅気味の接ぎ木の方が活着がよい。
コガキは、昔は蚕具や投網を丈夫にするために9月上旬にもぎとってつぶし、カキシブをとるために当地の農家には何処にもあった。なお、普通のカキも9月上旬につぶせば良いカキシブが沢山楽に取れる。昔は食用のため、用途がカキシブとコガキモチしかないコガキがカキシブ用に使われたのである。
熟したコガキの味は特有の甘味のために食べられたが何しろ種子が沢山あってかなわない。全く種子のないコガキが宮木から辰野や上島まで10本余あった。今生きているのを確認しているのは上辰野に1本だけである。種なしのコガキは甘味は少し落ちるがたいがい大粒で美味のため接いであったが、私の昔の調査では1本も同じものはなかった。どこかに残っていたら大切にしてほしい。近ごろ流行の健康乾燥果実にも適当であるから。
(辰野日報・昭和59年12月14日掲載)
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