綿(わた)──5月が播(は)種期

昨夏、親友の林仙さんが一鉢のワタノキを持ってきてくれた。日本綿業協振興会配布の種子を播いたとのこと。昨年夏は暑かったので次つぎと花を咲かせてくれた。昆虫によって授精するが念のために人工授粉をし、実も制限し、10月以後は凍らぬガラス室内に入れたところ、12月になって実がはじけ始め、久しぶりでコットンボールを楽しむことが出来た。
昔の昔はこの辺でも自家用に綿を栽培した話を聞いている。上田方面ではつくり続けたという。戦前は鳥取、島根でわずかにつくられていた。極早生種であった。戦後農家の全自給生活グループで私も、今は丸山グラウンドの下の畑でつくってみた。霜のくる頃わずかに熟して一握りのワタを収穫した。
ワタはオクラやハイビスカスの仲間である。世界中には色々の種類がある。救命胴衣や枕に入っているワタは熱帯の大木のキワタの実のワタで吸湿性がない。ワタの種類によってははぜた実からワタが10センチ余も垂れ下って美しい。
ワタは種子に生えている毛であり、種子は6ミリの卵型で白い毛に包まれている。ちょっと青味を感じる灰色の種子が完熟している。この実から綿毛を除いた後で綿実油をしぼる。この辺でつくるには5月になって種をまく。今は昔の様な綿摘みでなく機械刈りをする。
   (辰野日報・昭和60年1月15日掲載)
  写真撮影:青木繁伸氏(群馬県前橋市)

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