武蔵野の春を偲ばせるカタクリの花も春を告げる花である。チューリップのなかった江戸時代には商家の風習の一つとしてカタクリの鉢植えを飾った由。この辺にも一杯あったが随分と少なくなった。雑木山も雑木が余り大きくなるとまた少なくなるだろう。わずかずつあちこちで咲く林相の年代に入ったが、減る林相になったことも事実。それに輪をかけて掘ってくる人も増えた。
春の若葉の頃や開花期に掘ってきても翌年1枚の葉が出れば幸いの方。深い所に小指先2節の大きさの白い球根がある。一枚葉のうちはすぐに枯れる。咲いても実を結んだ株の方は1月余葉が生きている。
掘り取ってくるのは葉が枯れてから。球の下端と両端を特に傷つけぬよう。無惨に掘り返された犯行現場を見るのは山草を愛する人にとって大変につらいことである。球は水をよくしぼったタオル等で包んでくる心掛けも必要。
植え付けは深さ30センチ以上の大穴を掘り、小石を少なくとも10センチ以上敷き赤土を敷いて球を立ててから球の見えなくなるまで赤土を盛り、腐葉土をたっぷり混ぜた土で覆う。1〜2年は一枚葉しか出ないかも知れない。植え付けの場所は家の北側等で夏の早朝だけ日のあたる所。昼間は日の強く当たらぬ所などで、上手にカタクリを毎年咲かせる事は案外難事である。
極めて弱い愛すべき草であるから、もし採集したいなら何か目印をつけておいて6〜9月に掘るのがよい。
(辰野日報・昭和60年3月3日掲載)
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