菊[1]──やはり秋の花

秋といえばキクである。然し現在は切り花、鉢花ともに年中供給されているが、自然に放任しておくとやはり秋の花である。秋いがいに咲くキクは、日の長い夏に生長して、秋に入り日が短かくなると蕾を作る性質を利用して、草丈が必要な高さになるまで夜間電灯照明をし、蕾を作らせる時には暗幕で覆って日を短かくする。長日と短日の操作を加えることによって年中自由に咲かせる。もちろん品種によって、比較的低温でも茎のよくのびる品種とか、暑い夏でも短日操作だけで着蕾、開花する品種等があって、時期別、用途別に世界中で品種改良がすすめられている。
この秋も華々しく、天狗どもが玄人、素人ともどもに昔からの大輪や懸崖、盆栽作りに腕をきそいあったのであるが、その歴史や祖先のことを知っておくのも面白いと思う。
中国では宗時代にかなりの大輪菊があり、日本では万葉集にはないが古今集には詠まれている。始めは薬用としたり貴族の間で渡来したものが栽培されていたようで、江戸時代に入り急速に多くの品種が渡来し、その後半では国内での品種改良も行われた。日本最初の花の園芸書水野勝元の写本花段綱目(1664)には輸入菊が80品種、元禄8年(1695)の花壇地錦抄には230種も書かれている。現在の日本栽培菊のおよその系統は江戸末期に完成されている。さてその親は何だったろうか。
   (辰野日報・昭和60年11月23日掲載)

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