菊[3]──栽培菊の親を実証

前述の交配によって作られたノヂギクは栽培菊の小菊のおよその花変りの八重咲、管咲、細弁、丁字咲、サジ弁や現在の嵯峨菊の様な細よじれ弁のも出来、花の大きさも10センチを越す大きさまであらわれてきた。花の色も白、黄、桃の他略赤と言ってよい色までができ、葉の形も普通の中輪菊とほとんど変わらない広い丸い縁のものとなった。育成の経過を知らぬ人には普通の栽培菊との差は認められず、ノヂギクとシマカンギクが古くからの園芸上の栽培菊の親であり得たことを実証できた。
この交配によってできた新しい栽培菊は昭和10年の陸軍大演習の際の宮崎高等農林学校への陛下行幸の際天覧に供した。陛下は定められた道路からこのキクの鉢のある芝生に入られ一鉢ずつご覧になり、お時間延長42分のお道草の第一号となった。今上陛下が真物の生物学者であられることを関係者一同肝銘させられた。そのころのノヂギクの一部を辰野へ持ち帰った生き残りが先日本紙の写真となった。
いま方々の庭に古株となっているキクは、かつては友人、知人の所で正式に鉢植されていたそのころの銘品種である。キクは株分け苗の下葉が枯れあがるので、春から初夏までに元気な枝先を10センチほど摘み、挿し木として丁寧に栽培すると昔のような美しい花を咲かせることができる。明春は是非やってみてください。
   (辰野日報・昭和60年12月6日掲載)

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